教育訓練費とは、租税特別措置法第42条の12の5に定義される、企業が国内雇用者の職務に必要な技術・知識習得のために支出する研修費用です。賃上げ促進税制(中小企業者等向けは措法第42条の12の5第3項)の上乗せ要件として、教育訓練費が前年度比5%以上増加し雇用者給与等支給額の0.05%以上であれば、控除率が+10%上乗せされます。中小企業向けの最大控除率は45%(通常15%+賃上げ上乗せ+教育訓練費上乗せ+両立支援上乗せ)に達し、人材育成への投資が直接的な税務メリットに結びつく制度です。本記事では、中小企業が教育訓練費を効果的に活用するための税務実務を税理士法人みらいが整理します。
教育訓練費とは
教育訓練費は、税務上は租税特別措置法上の独立概念として扱われます。一般的な「研修費」「教育費」とは範囲が異なるため、税務メリットを受けるには区分管理が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令 | 租税特別措置法第42条の12の5(賃上げ促進税制) |
| 対象者 | 国内雇用者(役員・特殊関係者は除外) |
| 目的 | 業務に必要な技術・知識の習得・向上 |
| 会計処理 | 原則として研修費・福利厚生費等で損金算入(人件費は不可) |
賃上げ促進税制の全体像は中小企業の賃上げ促進税制(2026年度)活用ガイドで詳しく整理しています。
賃上げ促進税制と教育訓練費上乗せ
2024年4月以後開始事業年度(中小企業は2024年4月〜2027年3月の期間)から、改正された賃上げ促進税制が適用されています。
なお、令和8年度税制改正により、中小企業向けの教育訓練費の上乗せ措置(+10%)は廃止され、令和8年(2026年)3月31日以前に開始する事業年度までの適用とされています。以後の事業年度では最大控除率が45%から35%に縮小します(基本15%・上乗せ①15%、くるみん・えるぼし等の上乗せ5%は維持)。適用の可否は事業年度によって異なるため、国税庁・中小企業庁の最新の公表内容を必ずご確認ください。
中小企業向けの控除率(令和8年3月31日以前開始事業年度)
| 要件 | 控除率 |
|---|---|
| 基本要件:雇用者給与等支給額が前年度比+1.5% | 15% |
| 上乗せ①:+2.5%以上 | +15%(合計30%) |
| 上乗せ②:教育訓練費が前年度比+5%以上かつ給与の0.05%以上 | +10% |
| 上乗せ③:くるみん・えるぼし認定の取得 | +5% |
| 最大控除率 | 45% |
2024年改正で5年間の繰越控除も導入され、赤字法人でも将来の黒字化時に活用できる設計となりました。中小企業の節税策全体は法人税の節税対策もご参照ください。
対象となる支出範囲
租税特別措置法施行令上、教育訓練費は以下の3類型に分けられます。
1. 外部講師等への支出
- 外部講師・指導員に対する謝金・教材費
- 外部講師の交通費・宿泊費
2. 外部施設等使用料等
- 外部の研修施設・会議室の利用料
- 研修用設備・備品の賃借料
- 研修用コンテンツの利用料(eラーニング等)
3. 外部委託訓練・研修参加費
- 研修機関への委託訓練費
- セミナー・研修への参加費
- 資格取得のための講習費(業務に必要なもの)
対象外となるもの
- 社内講師の人件費(給与に含まれるため)
- 福利厚生的な研修(語学研修で業務関連性が薄いもの等)
- 業務上の調査・情報収集費
- 役員の研修費
- 採用活動に伴う研修費(内定者研修等)
人材開発支援助成金との連携
厚生労働省の人材開発支援助成金は、中小企業の人材育成投資を促進する代表的な助成金です。賃上げ促進税制と併用可能ですが、助成金で補填された部分は教育訓練費から除外する必要があります。
- 人材育成支援コース:OFF-JT賃金助成・経費助成
- 教育訓練休暇等付与コース:有給教育訓練休暇制度の導入
- 人への投資促進コース:高度デジタル人材・大学院での学び直し
- 事業展開等リスキリング支援コース:新事業展開に伴う再訓練
助成率・助成額はコースや企業規模、賃上げ要件の有無によって異なり、年度ごとに見直されます。適用にあたっては、厚生労働省が公表する最新の支給要領・パンフレットで最新の助成率と要件を必ずご確認ください。税額控除と組み合わせることで、人材投資の実質負担を軽減できます。
実務対応とエビデンス管理
税額控除を確実に受けるため、以下のエビデンス整備が必要です。
- 研修実施記録:日時・場所・内容・参加者リスト・講師名
- 領収書・請求書:研修費・教材費・受講料の支払証憑
- 研修教材・テキスト:内容を確認できる資料の保存
- 勘定科目区分:研修費・福利厚生費等で他費用と区分
- 賃金台帳との照合:受講者が国内雇用者であることの確認
申告時には「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(別表六の該当様式。表番号は改正により変わるため、適用事業年度の様式をご確認ください)を提出し、教育訓練費の集計表を添付します。電子帳簿保存への対応は電子帳簿保存の実務もあわせてご参照ください。
よくある質問
Q. 役員の研修費は教育訓練費になりませんか?
A. 賃上げ促進税制の対象は「国内雇用者」に限定され、役員・役員の特殊関係者は除外されます。ただし損金算入そのものは可能です(業務関連性があれば)。
Q. 内定者向け研修は対象?
A. 雇用関係成立前の内定者は対象外です。入社後に実施する新人研修は対象となります。
Q. 海外研修は対象?
A. 国内雇用者向けで業務関連性があれば対象です。海外出張に伴う観光要素が含まれる場合は、業務関連部分のみ計上する按分が必要です。
まとめ
中小企業の教育訓練費は、租税特別措置法第42条の12の5の賃上げ促進税制で+10%上乗せの対象となり、最大45%の税額控除につながる重要な投資領域です(この上乗せ措置は令和8年(2026年)3月31日以前に開始する事業年度までの適用とされ、以後は最大35%に縮小します。適用時期は必ず最新の公表内容をご確認ください)。対象支出は外部講師謝金・施設利用料・外部委託訓練・研修参加費に限定され、社内講師の人件費や福利厚生的研修は除外されるため、勘定科目の区分管理が鍵となります。厚生労働省の人材開発支援助成金との併用で実質負担をさらに軽減でき、中小企業の人材投資の好循環を生み出せます。中小企業向けの研究開発税制(研究開発税制(R&D税制)の活用メリット)と組み合わせた人材・技術の同時投資戦略も検討の余地があります。なお、個別事案は必ず税理士にご相談ください。
参考にした一次情報(出典)
- 国税庁が公表するタックスアンサー(よくある税の質問)および各種パンフレット等の公表資料
- e-Gov法令検索(デジタル庁)に掲載されている関係法令の条文
実務の現場から:当事務所には、設備投資や賃上げの前に「使える税制優遇はあるか」というご相談が多く寄せられます。適用要件と手続の期限を先に確認しておくことが、取りこぼしを防ぐ最大のポイントです。
ご注意(免責事項):本記事は2026年8月3日時点の法令および公的機関の公表資料にもとづく一般的な解説です。税制・社会保険制度は改正されることがあり、同じ制度でも個別の事情によって取扱いが変わります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士など専門家にご相談ください。本記事の情報にもとづく判断により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。
税理士法人みらい(税理士法人番号 第1218号)/〒202-0002 東京都西東京市ひばりが丘北3-4-1 みらいビル2F/TEL 042-422-7440/初回相談無料。昭和58年開業・平成18年法人化、ISO9001認証取得。元国税局OBを含む税理士4名と税務・会計スタッフを合わせた総勢17名の体制で、税理士法第33条の2の書面添付制度にも対応しています。