中小企業の賃上げ促進税制とは、租税特別措置法第42条の12の5に基づき、中小企業者等が国内雇用者に支給する給与等を一定割合以上増加させた場合に、その増加額に対して最大45%の税額控除を受けられる制度です。2024年度改正で5年間の繰越控除が新設され、赤字企業でも将来の黒字化時に控除メリットを享受できるようになりました。本記事では、2026年度時点での適用要件・控除率・実務手続きを整理します。
賃上げ促進税制とは
賃上げ促進税制は、企業の積極的な賃上げを後押しするため、給与等支給額の前年度比増加額に対して法人税額(個人事業主は所得税額)から控除を行う制度です。中小企業者等の対象は次のとおりです。
- 資本金または出資金の額が1億円以下の法人
- 資本または出資を有しない法人で常時使用従業員数1,000人以下
- 常時使用従業員数1,000人以下の個人事業主
- 農業協同組合等
ただし、租税特別措置法施行令により、大規模法人の子会社(みなし大企業)等は対象外となる場合があります。法人税の節税対策全般は法人税の節税対策|中小企業が活用すべき制度もあわせてご確認ください。
適用要件と控除率の構造
2026年度時点の中小企業向け賃上げ促進税制の控除率は次の通りです。
| 要件 | 控除率 |
|---|---|
| 雇用者給与等支給額が前年比1.5%以上増加 | 15%(基本) |
| 雇用者給与等支給額が前年比2.5%以上増加 | 30%(基本) |
| 教育訓練費が前年比10%以上増加 | +10% |
| くるみん・えるぼし認定(両立支援加算) | +5% |
| 最大控除率 | 45% |
控除上限は「当期の法人税額の20%」です。20%を超えて控除しきれない部分は、後述の5年繰越措置で翌期以降に繰り越せます。雇用者給与等支給額には役員給与等は含まれません。
上乗せ要件(教育訓練費・両立支援)
教育訓練費の上乗せ要件
教育訓練費が前事業年度比で10%以上増加し、かつ雇用者給与等支給額の0.05%以上であれば+10%の上乗せが適用されます。教育訓練費の範囲は、外部研修費・講師謝金・教材費・OJT費用(外部委託分)などです。社内研修の人件費は対象外となるため、領収書等の証憑保存が重要です。
両立支援加算(くるみん・えるぼし)
2024年度改正で新設された両立支援加算は、子育てサポート企業(くるみん認定)または女性活躍推進企業(えるぼし認定二段階目以上)の認定を、適用事業年度終了時に受けていることが要件です。+5%の上乗せが受けられます。認定取得には数か月かかるため、適用年度の前年から準備が必要です。
5年繰越措置の活用
2024年度(令和6年度)税制改正で新設された繰越控除措置により、中小企業は控除しきれなかった金額を翌期以降5年間繰り越せるようになりました。これにより、当期が赤字または法人税額が小さい場合でも、将来の黒字年度で控除メリットを享受できます。
- 繰越対象:当期に控除しきれなかった金額(控除限度超過額)
- 繰越期間:翌期以後5年間
- 繰越年度の要件:その繰越年度において、雇用者給与等支給額が前期を上回ること
繰越メリットは創業期や設備投資期の赤字企業にとって特に大きく、研究開発税制と組み合わせて中長期の税務戦略を構築することが推奨されます。詳しくは研究開発税制(R&D税制)の活用メリットもご確認ください。
申告手続きと必要書類
賃上げ促進税制は、確定申告書に明細書を添付することで適用を受けます。事前申請や認定は不要ですが、要件充足を客観的に示す資料の保存が重要です。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 別表六(二十四) | 賃上げ促進税制の控除税額計算明細書 |
| 給与等支給額の集計表 | 雇用者給与等支給額・前年度比較 |
| 教育訓練費明細 | 研修費・講師料・教材費の領収書等 |
| くるみん・えるぼし認定通知書 | 両立支援加算を適用する場合 |
2026年度税制改正の他のポイントは2026年度税制改正|中小企業が押さえるべき実務ポイントで整理しています。
よくある質問
Q. 個人事業主も適用できますか?
A. 常時使用従業員数1,000人以下の青色申告者であれば適用可能です。所得税額からの控除となります。
Q. 役員報酬の引き上げは対象になりますか?
A. 雇用者給与等支給額には役員・特殊関係者への給与は含まれないため、役員報酬の引き上げは控除対象になりません。役員報酬の改定は役員報酬の改定タイミングと税務上の留意点で別途解説しています。
Q. 中途採用者の給与増加は反映されますか?
A. 雇用者給与等支給額は集計対象期間中に給与等の支給を受けた国内雇用者全体の合計額で判定するため、新規採用による増加も含まれます。
まとめ
中小企業の賃上げ促進税制は、最大45%の税額控除と5年繰越措置を組み合わせることで、賃上げ・人材投資のコストを大幅に軽減できる強力な制度です。教育訓練費の増額や両立支援認定の取得を計画的に進め、適用年度に確実に上乗せ要件を満たすことが活用のカギとなります。経営計画と資金調達の連携の観点からも、賃上げ計画は中期経営計画に組み込むべき重要要素です。税理士法人みらいでは賃上げ促進税制の試算から申告まで一貫サポートしています。なお、個別事案は必ず税理士へご相談ください。