毎年2月16日から始まる確定申告期になると、多くの納税者が駅から税務署まで、ぞろぞろと商店街を歩いた。商店街は潤い、税務署では列をなして順番を待つ。署内では担当者と2時間も折衝したり、泣き落としや怒号が聞こえたりしていた。
昨今の確定申告風景は様変わりし、納税者の来署者が激減している。税務署前の看板には「当署には納税相談会場はありません」と掲げられ、確定申告だけのプレハブ庁舎もなく、アルバイト職員や納税協力団体の事務員の姿も見えない。サイレントな納税風景だが、納税者数が減っているわけではない。令和5年の申告者数は2,339万件で、国民6人に1人が申告している計算になる。
戦後、米国のシャウプ勧告を受け、日本の税制は従来の賦課課税から自主申告・自主納税へと転換した。国民は自ら税を申告・納税せよと言われたが、当時の日本では簿記に馴染みがなく、記帳能力も十分ではなかった。そのため税務署で算定してもらい、申告・納税する形が一般的であった。税務署は「確定申告はお早めに」をキャッチフレーズに、国民の目を税務署へ向けた。この時期は「税務祭り」とも称された。
新税制時代に申告・納税した納税者数は905万件であった。野添陳平氏(参議院議員)が著書や国会質問で、医療費控除による還付金の存在を紹介したことをきっかけに、主婦層を中心として還付申告が激増し、税に対する関心が高まり、税が身近なものとなった。
国はIT化を積極的に推進し、平成後期以降、行政関連書類のオンライン化を進めてきた。これにより、行政手続の効率化を図るとともに、行政コストの削減を通じて国費の有効活用を実現することを目指してきた。その一環として、確定申告の電子化であるe-Taxの利用促進を呼びかけ、国民に対してオンライン申告を積極的に慫慂してきた。その結果、国民の理解も年々深まり、税務署へ直接出向くのではなく、税理士に依頼して電子申告を行う方法や、自宅のパソコンから自ら送信する方法が広く定着している。利便性の向上や手続の簡素化も相まって、e-Taxの普及率は74.1%にまで達した。今期はさらに80%を目標として掲げ、より一層の利用拡大を目指している。このように、政府のオンライン施策は着実に成果を上げており、行政の効率化と税金の有効な活用が現実のものとなりつつある。今後もデジタル化の推進により、国民にとって利便性の高い行政サービスの実現が期待される。
(令和8年2月16日 M・A)